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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)3428号 判決 1956年10月12日

原告 日本化工株式会社

被告 国

訴訟代理人 望月伝次郎 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対して、金三、三六九、三八〇円及びこれに対する昭和二九年八月二六日より完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は板橋区板橋町八丁目二一六七番地の三宅地四八一坪三合四勺及び同土地上所在家屋番号、同町乙二九一番の二、木造モルタル塗瓦葺二階建、共同住宅一棟建坪一五七坪六合六勺、二階坪一二七坪八合三勺の所有者であつた。

二、しかるところ、東京国税局長は原告に対する昭和二五年度法人税同源泉徴収所得税等の滞納処分として昭和二六年二月二三日前記土地につき、同年三月二八日前記建物につき、それぞれ差押処分をなしたうえ、右建物についてのみ昭和二九年三月一六日公売分をなして訴外字原留吉がこれを落札し、同日附売却決定により東京法務局板橋出張所昭和二九年八月二六日受付第二二九〇八号を以て同訴外人のため所有権取得登記がなされ、土地については昭和二九年三月一一日公売公告により、同年三月一八日入札公売する旨公告されたが、入札者がなく公売処分ができず、原告は昭和三一年二月滞納税金を完納して差押の解除をうけた。

三、同局長は右土地及び建物について同時に一括公売せず、建物だけを公売処分したため、建物の買受人は右土地の上に法定地上権を取得した。従つて原告は右法定地上権の附著した右土地を所有することとなつたが、元来右土地が建物と同一所有者に属するときは一坪当り一〇、〇〇〇円の価額を有すべきところ前記のような法定地上権が発生したため、一坪当り三、〇〇〇円の価額しか有しないことになり、原告は坪当り七、〇〇〇円総坪数四八一坪三合四勺につき、金三、三六九、三八〇円の損害を蒙つたものであり、右は同局長が公売方法を誤り建物のみを公売した重過失に起因するものである。

四、よつて原告は被告に対し国家賠償法第一条にもとずき損害賠償として、右金額及びこれに対する前記法定地上権発生の日である昭和二九年八月二六日以降完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだと述べ、被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、原告主張の土地及び建物が原告の所有であつたこと、右土地及び建物につき原告主張のとおり滞納処分による差押処分がなされ、右建物が原告主張のとおり公売に付されたこと、訴外字原留吉が落札して右建物の所有権を取得し、原告主張のとおり、右土地につき法定地上権が発生したこと及びその後右土地の差押処分が解除されたことはいずれも認める。しかし公売物件は原告主張の建物のみでなく、同建物を含む四筆の建物及び一、二筆の土地面積合計三、七二一坪五合三勺並びに機械器具等計五三点であつて公売価格は二〇、〇〇〇、一〇〇円であつたと答弁し、被告の主張として、

(一)  収税官吏が公売処分をする場合その認めるところにより公売物件を一括して公売するも各別に公売するも自由に選択し得るところであり、右は法の禁止しないところであるからこの点に関して東京国税局長に違法はない。

(二)  原告主張のとおり法定地上権の発生によつて、土地価額が減少したかのようであるが、当該建物の公売価額中には、その敷地を利用する権利の価額が包含されているのであるから法定地上権の発生によりその敷地の価額が減少したとしても、減少額に相当する部分は建物公売代金に含まれ滞納税金に充当されたのであるから原告は右公売処分によつて何等の損害も被つていないと述べた。

<立証 省略>

理由

原告主張の土地及び建物が原告の所有であつて、いずれも滞納処分により差押がなされたこと、建物のみが公売されその敷地である前記上地に法定地上権が発生したことは当事者間に争がない。よつて分割公売による法定地上権の発生により原告に損害が生じたか否について考察するに前記当事者間に争のない事実に成立に争いのない甲第二号証及び同第六号証から第一〇号証を綜合すると、本件公売処分は原告主張の建物だけでなく、他に四筆の建物、一二筆の土地三七三一坪五合三勺が同時に一括公売され、公売価額は一七、七〇〇、〇〇〇円であつた事実が認められるところ、その全体としての公売価額が不当に低廉であると認めるに足りる証拠はなく、本件建物が取毀建物として公売されたものでないことは本件口頭弁論の全趣旨に徴して認め得るところであるから、右公売処分による建物の公売価額の中には土地の利用権の対価に相応する価額が含まれていると推認すべく、甲第一号証、第四号証、第五号証によるも右建物の公売価格に土地使用の対価が含まれていなかつたことを認めるに足らず、他にこれを認めるに足りる証拠は存在しないところ、右公売代金が原告の滞納税金に充当された以上、原告はこれにより何等の損害をこうむるものではないといわなければならない。よつて爾余の点を判断するまでもなく原告の本訴請求は理由がないから失当としてこれを棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 西川正世 田中恒朗)

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